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岐阜家庭裁判所 平成5年(家)1149号 審判

申立人 篠原雄一

相手方 バルバラ ローサ フリアン

事件本人 篠原道子ことバルバラ、ミチコ

主文

事件本人の親権者を申立人と指定する。

理由

一  本件記録によれぼ、次の各事実が認められる。

1  申立人は、平成2年5月頃、フィリピン国籍を有する相手方と知り合い、同年8月頃から申立人の肩書住所地において同棲を始め、相手方は、1991年(平成3年)3月26日、岐阜市内の病院において、申立人との間の子である事件本人を出産した。

2  その後の平成4年11月頃、相手方は事件本人を残したまま家出し、行方不明のままであるところ、申立人は、同居している実母の協力を得て事実上事件本人の監護養育をする一方、平成5年4月7日には、事件本人を認知した。

そして、今後事件本人を幼稚園に入園させたり、就学させるためにも、親権者が申立人でないと不便であると考え、本件申立てにいたった(なお、申立人は事件本人を日本に帰化させることも考えている。)。

二  ところで、子の親権者の指定・変更については親子関係の法律関係の問題として、法例21条により子の本国法又は子の常居所地法が準拠法となるから、本件においてはフィリピン国籍を有する事件本人の本国法であるフィリピン法が適用される。

そこで、フィリピン家族法(1988年政令第209号、同227号)175条によると、非嫡出子の親権者は「母親の親権に従う」とされているが、本件のように親権を有する母親が行方不明となり、親権を行使することが不可能となった場合に、非嫡出子の親権者を父親に指定することができるかどうかに関して直接定めた規定は存在しない。

また、同法212条は「両親の一方が不存在または死亡した場合は、もう一方の親が親権を行使する。」旨、213条は「両親が別居した場合は、親権は裁判所が指定した方の親が行使する。」旨規定するが、前記各条はそもそも共同親権の行使を前提として、同条のような事態が発生した場合の親権の行方を規定したものと解され、母親の単独親権を前提とする本件の場合は、前記各条のいずれにも該当しないと考えられる。

そうすると、フィリピン法上、本件のような非嫡出子の親権者を父親に指定することができるかどうかに関する規定はないといわざるをえず、準拠法の欠けつの場合に該当するから、結局条理により日本国民法を適用するのが相当であると解される。

三  よって、同民法819条5項、4項に定めるところにより、前記一の事実に照らすと、事件本人の親権者を申立人に指定することが未成年者の福祉に合致するものということができる。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 黒岩巳敏)

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